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Psycho 心理学

心理学と哲学

よくある心理学用語の誤用例

一番よく見るのが「ドーパミン」です。最近は「ドーパミンが出るから人は快楽を感じる」といった説明がSNSでも氾濫していますが、実際の脳科学ではそんな単純な話じゃありません。ドーパミンは快楽の物質というより「報酬予測誤差」に関わる神経伝達物質で、「思ったよりもいいことが起きた時」に活発になるんです。だから「ドーパミンが出る=幸福」ではなく、「もっとやりたい、もっと欲しい」という動機付けの役割が大きい。にもかかわらず「ドーパミンを使えば顧客を依存させられる」みたいな浅い応用を語る人が後を絶たないんですよね。
 
次によくあるのが「ミラーニューロン」。人が他人の行動を見ると、自分も同じ神経が反応する、という発見がありましたが、それを拡大解釈して「ミラーニューロンを使えば人を思い通りに操れる」とか「営業はミラーニューロンを意識しろ」と言う人がいます。でも実際の研究では、ミラーニューロンが人間関係や共感のすべてを説明できるわけじゃなくて、神経科学の中でもまだ議論が続いている段階です。SNSで軽々しく「共感=ミラーニューロンの働き」と言ってしまうのは、科学を利用して権威付けしているに過ぎません。
 
また、「マズローの欲求五段階説」も典型的に誤用される心理学理論です。よく「人間は必ず生理的欲求から順番に満たしていく」と説明されますが、マズロー自身は「必ずしも階段状に進むわけではない」と補足していたんです。本来は「自己実現の方向性を理解するための理論モデル」なのに、「これを理解すれば購買行動が読める」とか「顧客を次の段階に引き上げれば売れる」といった安易な解釈にすり替えられてしまう。実際の人間はもっと複雑で、経済的に豊かでも孤独に苦しむ人もいれば、逆に生活が不安定でも強い使命感を持って動く人もいるわけです。
 
「パブロフの犬」もまた安直に使われがちな例です。「条件付けを使えば顧客は習慣的に行動する」といった説明がよくされます。でも古典的条件付けはあくまで動物実験で確認された学習の一形態で、人間社会の高度な消費行動をすべて説明できるわけじゃありません。それをそのまま「セールスのたびに音を鳴らせば Pavlov 効果で売れる」なんて言ってしまうのは、あまりに短絡的ですよね。
 
さらに、「アンカリング効果」も頻繁に誤用されます。本来は「最初に提示された数値や情報が判断に影響を与える」という行動経済学の現象ですが、SNSでは「高い価格を最初に見せれば必ず安く感じる」といった単純化が多い。実際には、文脈や信頼性、消費者の知識レベルによって影響の強さは全然違います。にもかかわらず「アンカリング効果を利用すれば価格戦略は完璧」なんて語られると、本来の複雑さが切り捨てられてしまうんです。
 
最後に挙げたいのは「レミニセンス効果」。これは「一度学んだことを少し時間を置いてから思い出すと、かえって記憶が強化される」という現象ですが、SNSでは「レミニセンス効果を使えば必ずリピーターになる」とか「一度間をあけると商品が欲しくなる」なんて極端な話になってしまう。でも本来は学習心理学で観察される限定的な現象で、購買行動や顧客心理にそのまま応用できるわけじゃありません。
 
こうして見ていくと、誤用のパターンってだいたい同じで、「学問的にまだ議論がある」「限定的にしか成り立たない」ことを無視して、万能の法則みたいに持ち出してしまうんですよね。たぶん「心理学」という言葉そのものが説得力を持ってしまうから、キャッチーなマーケティングに利用されやすいんだと思います。でも結局は、人間を単純なボタンのように扱ってしまう浅い応用にしかならない。
 
本当にマーケティングに心理学を応用するなら、個別の用語を魔法のように振りかざすんじゃなく、人間の複雑さを前提にした上で「こういう傾向があるかもしれない」と慎重に使うべきです。誤用例を見ていると、学問の面白さもマーケティングの深みも失われてしまっていて、残念に思うことが多いんですよね。
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