最近SNSの世界を眺めていると、「SNSマーケター」と自称する人たちが心理学の用語を軽く引用して、自分のノウハウをもっともらしく語る場面がよくあります。確かに心理学の知識をマーケティングに応用すること自体は有効なんですけど、その使い方があまりに浅くて、かえって誤解を広めていることが多いんですよね。
例えば「人は3回繰り返されると信じやすい」とか「赤は購買意欲を高める」といった断片的なフレーズをそのままSNSの投稿テクニックに直結させる人がいます。でも心理学の研究って、特定の条件下で統計的に有意差が出たという話であって、そのまま一般生活やビジネスに当てはめられるわけじゃないんです。
実験は被験者の属性や状況に強く依存しているし、再現性の問題もある。それを無視して「心理学的に正しいからこの方法が効く」と断定してしまうのは、あまりに乱暴です。
さらにタチが悪いのは、彼らがよく使う「バンドワゴン効果」や「社会的証明」といった有名な心理学用語です。本来は人間の集団行動に関する理論で、社会学や行動経済学でも扱われる広い概念なのに、「フォロワーが多いと信用されやすい」といった単純な説明に矮小化してしまう。確かにSNSでは数字が一つの指標にはなりますが、それを心理学で完全に説明できるかといえば全然そうじゃない。むしろ文化的背景やプラットフォームごとの文脈が大きく影響します。そこを全部無視して「心理学的に証明されている」と言い切ってしまうのは危ういです。
もう一つの問題は、こうした浅い心理学の応用が「個人を操るテクニック」として語られる点です。たとえば「人間は損をしたくないから、限定性を打ち出せば必ず買う」みたいな話。確かに行動経済学には損失回避という概念がありますが、それは「平均的な傾向」にすぎず、個々人の価値観や経験によって反応は変わる。それなのに「これを使えば誰でも動かせる」と言わんばかりに指南するのは、人間をあまりに単純化しすぎているんです。
心理学って本来は非常に複雑な学問で、人間の行動や感情は多層的な要因から成り立っています。実験室で得られたデータを現実のSNSの混沌とした環境にそのまま当てはめるのは無理があるんですよね。にもかかわらず、自称マーケターが「科学的根拠」と称して小手先のテクニックを拡散してしまうと、本当にマーケティングを学びたい人が誤った知識を信じてしまう危険があります。
こういう「浅い心理学応用」を真に受けてしまうと、マーケティング自体がすごく安っぽいものに見えてしまうのも問題です。マーケティングの本質は「顧客を理解すること」であって、「心理的トリックで誘導すること」ではありません。表面的なテクニックを積み上げても、結局のところ顧客の信頼や長期的な関係にはつながらない。むしろ「騙された」と感じられれば逆効果にすらなります。
SNSで心理学を持ち出すなら、もっと謙虚であるべきだと思うんです。研究の文脈をきちんと説明したうえで、「こういう傾向があるかもしれない」という参考情報として扱うのならまだいい。でも「心理学的に必ずこうなる」と断言するのは、学問に対しても、実際の人間に対しても失礼だと思います。
自称SNSマーケターが説く浅い心理学の応用は、耳ざわりはいいけれど実際の役に立つかは疑わしいし、むしろマーケティングの信用を損なう危険を含んでいます。本当に効果的なSNSマーケティングを考えるなら、心理学の断片的なテクニックよりも、ユーザーが何を求め、どんなストーリーを共有したがっているのかを丁寧に観察することの方がはるかに大事なんです。